ラ・ベンターナ

La Ventana
霧と湖と風が交わる、“学者たちと魔導士たちの聖地”
ラ・ベンターナの雰囲気・景観

ラ・ベンターナの景観は、
「霧」「風」「静寂」の三つによってほぼ形づくられている。
朝は、湖面から立ち昇る霧が街全体を包み込み、
風の音だけがかすかに耳に残る。
湖畔の風車の回転音、工房の風笛、魔術研究所の鈴音が
霧に遮られて遠くから微かに響く。
昼近くになると霧が薄れ、
湿った石畳が光を反射し、街並みの輪郭が現れる。
湖の上には薄い風の軌跡が何本も走る。
夕刻になると、再び冷気のせいで霧が濃くなり、
街は穏やかな薄闇に沈む。
小さな窓から漏れる橙色の灯りが、
霧の帳を揺らして独特の神秘を醸し出す。
地理・環境
ラ・ベンターナはディング半島の内陸、山脈に抱かれた高地の湖畔に築かれた小都市である。
標高はおよそ1200m。周囲は濃い霧を生むディング王国の中では冷涼な気候で、
特に早朝と夕刻には湖と森の境界が白い靄に覆われ、街はほとんど音を吸い込んだような静寂に包まれる。
湖は深く、風の通り道となっている峡谷が南北に伸びているため、
街には絶え間なく強い風が吹き込む。
その風は季節ごとに方角を変え、時には高地の冷気を、時には山向こうから暖かい湿風を運ぶ。
街は湖の東岸に位置し、傾斜に沿って段々に家々が建ち並ぶ。
建物は石と木を組み合わせた背の低い構造が多く、
屋根には霧除けのための長い庇が張り出している。
周囲の森は湿り気が豊かで、
苔むした倒木、薬草、霧に濡れた葉の匂いが街路にまで流れ込み、
まるで自然と街が一体となったような空気感を持つ。
成り立ち・歴史
ラ・ベンターナは、山岳修行者たちが湖畔で瞑想と魔術研究を行うために建てた小さな庵が起点となっている。
彼らは「風」を神秘の象徴とみなし、
霧と風が交錯するこの地を「境界の窓(Ventana)」と呼んだ。
やがて、小規模な学院「賢者院」が成立し、
この学院を支える工房や薬草栽培の集落が周辺に集まり、現在の街の基盤が形成された。
王権との関わりは薄く、
宗教や学術に特化した「半独立自治」のような性質が強い。
政治的権力よりも学識と修練を尊ぶ気風があり、
街の意思決定も賢者の評議会によってなされることが多い。
文化
ラ・ベンターナの文化は、「静かなる観察」に根ざしている。
● 魔術と学術
この街の賢者院では以下の学問が盛んである:
・秘術魔法
・薬草学(湿地特有の薬草・霧花の利用)
● 工芸
・霧に強い防水加工布
・薬草を使った香油や治療薬
● 衣装と生活
風除けのために外套を多用し、
色は灰青・白・苔緑など控えめなものが多い。
街の人々は物静かで、会話も必要最低限で済ませる者が多い。
「霧が深い日は言葉を減らす」という古い慣習すら存在する。
● 料理
霧で湿った環境のため、煮込みや蒸し料理が中心となる。
・薬草スープ
・湖魚の蒸し焼き
・香草粥
・霧花茶(淡い香りの温茶)
宗教
ラ・ベンターナの信仰は、
ディング王国の中でもとくに神秘的かつ精霊崇拝に近い。
中心となるのは「風の精霊祠」で、
高地の風を「精霊の息」として捉え、
旅、探求、知識、直観の加護を祈る儀礼が行われる。
賢者院には「霧の書庫」と呼ばれる半地下の祠があり、
霧が満ちるときのみ読むことができる記録や幻視文書が保管されているという。
また、修行僧たちは霧の中で瞑想し、
風の流れに自らの思考を重ねる慣習を持つ。

