クルマティ村

Kurumati
クルマティの雰囲気・景観
ケトゥマ島の中央部に近づくと、
海の匂いが薄れ、代わりに木の香りが濃くなる。
森の奥から響くのは、カン…カン…と一定のリズムで鳴る木槌の音。
それこそが、この島の静かな村・クルマティの合図である。
市場の喧噪が特徴のナゴマでもなく、
夜の花が咲くマヌレでもない。
クルマティには、特有の“沈黙の美”がある。
村に足を踏み入れても、住民は大声で呼び込みはしない。
工芸に打ち込む人々は、職人同士も小声で語る。
だがその静けさは決して冷たくなく、
森を渡る風と木の音が代わりに街を満たしている。
“クルマティは静かに語る村”。
その沈黙こそが、この村の精神である。
地理・環境
クルマティはケトゥマ島の内陸、森に囲まれた緩やかな丘陵地帯に位置する。
● 森と風の都市
周囲は広い木材林(島固有の香木・軽量木・染色木)
地形は小さな谷とゆるい丘が連続
集落はその谷の間に点在し、
風がよく抜けるように街道と建築が配置されている。
ここは海岸都市の騒がしさはなく、
鳥の声、木の揺れる音、職人の作業音が街のBGMとなる。
● 豊かな木材資源
ケトゥマ島には独特の木々が自生している。
カリマ香木 ……香りを発する木、彫刻・香炉に使用
レクシ軽木 ……軽くて丈夫、船の内部材や楽器に使用
深紅樹 ……赤い染料が採れ、布や工芸装飾に用いられる
これらがクルマティの工芸文化を支える基盤である。
外見としては、“森と一体化した静謐な工芸村”。
成り立ち・歴史
● 精霊への奉納として始まった“工芸”
クルマティの歴史は、
“木の精霊へ捧げる彫刻儀礼”から始まる。
ケトゥマ島の古い伝承では、
島の中心部には木と風の精霊が宿ると信じられ、
昔の住民は木彫りを祈りとして捧げていた。
その祈りがやがて“工芸文化”として発展し、
職人が集い、クルマティという都市が形成された。
● 交易都市ではなく、“供給都市”
クルマティは港を持たず、ケトゥマ島の交易の主役ではなかった。
だが 木工芸・香木・染色材の供給地 という地位がディング王国との結びつきを強めた。
王国が島を統治するとき、
クルマティの工芸は王国の儀礼品として重宝され、
島内でも他村との調停役を任されるほど精神的な影響力を持つようになった。
文化
● 職人の街
クルマティでは、
子どもも老人も職人であるかのように、
木を削り、染め、磨き、組み上げる。
主な文化領域は以下の四つ:
- 木彫技術(祭具・楽器・小像)
- 香木加工(香炉・祭祀用具)
- 染色工芸(深紅樹の染料を使用)
- 軽木構造技術(船部材・舞台部材)
● 静寂を尊ぶ“クルマティの作法”
クルマティには独自の礼儀がある。
- 作業場では必要以上に声を上げない
- 木を削る音を“精霊への語り”とする
- 村同士の会話でも、相手の話を遮らない
ナゴマの熱気とは正反対、
だがその静寂は威圧ではなく、
どこか 温かい集中の空気 に満ちている。
● 生活のリズム
朝……森林の祈りと採材
昼……工芸・染色
夕方……湖や川で洗浄・乾燥
夜……静かな祭祀、楽器の調律
夜に太鼓は鳴らない。
宗教
● 精霊信仰の特徴
木を削る際は必ず最初の削片を祠に捧げる
風を読む“風紋師(かぜもんし)”という役職がある
樹齢の長い木には布を巻いて“触れぬ木”として敬う
プロカンの神殿も存在するが、
ここでは“外の者のための祈り場”という位置づけで、
地元民の祈りの中心にはならない。

